フェライト系ステンレスの溶接は難しい?特徴や溶接時の注意点

フェライト系ステンレス 溶接 品

フェライト系ステンレスの溶接の特徴

フェライト系ステンレスの溶接作業は、熱による影響を受けやすく、温度管理や冷却速度によっては割れやすくなる点に注意が必要です。

とくに冷却速度が早すぎると低温割れ、脆化が発生しやすく、作業には十分な注意が必要です。溶接熱影響部(HAZ)での結晶粒の粗大化による靱性低下、さらには475℃脆化なども注意する必要があります。

このような特性を十分に理解したうえで、溶接条件の徹底した管理、適切な溶接材料の選定、熱処理の活用などを含む工程設計をおこなうことが、フェライト系ステンレス溶接の品質の確保と信頼性向上の鍵です。

小池製作所では、溶接が難しいフェライト系ステンレスの加工にも対応しています。専門の溶接資格を所有する社員が、高精度な納品物を提供させていただきます。
フェライト系ステンレスの溶接の依頼先にお悩みの事業者様は、小池製作所へご相談ください。

他のステンレス鋼との違い

フェライト系ステンレスの加工特性は、オーステナイト系やマルテンサイト系ステンレスとは大きく異なります。

  • フェライト系ステンレスの特徴

フェライト系ステンレス鋼はクロムを主成分とし、ニッケルをほとんど含まないタイプが多いのが特徴です。

  • オーステナイト系ステンレスの特徴

オーステナイト系ステンレスは、クロムと比較的高濃度のニッケルを含み、面心立方格子構造を持つ非磁性材料です。耐食性と加工性に優れ、溶接時には割れが起こりにくい反面、熱膨張係数が大きいため歪みが生じやすい傾向にあります。

  • マルテンサイト系ステンレスの特徴

マルテンサイト系ステンレスは、高硬度、高強度を持ち、刃物や工具などに使われます。一般的には溶接性に劣るとされますが、溶接後に焼きなまし等の熱処理を適切に施すことで接合も可能です。

フェライト系ステンレスの溶接では、結晶粒の粗大化や475℃脆化、炭化物の析出などによる脆化が問題となるため、溶接熱影響部(HAZ)の管理が重要です。条件次第ではマルテンサイト系よりは制御しやすいケースもありますが、いずれにしても厳密な工程設計が求められます。

フェライト系ステンレスの利点としては、応力腐食割れに強く、熱膨張係数が低いため溶接後の歪みが比較的小さいこと、さらにニッケルを多用しないことでコストを抑えられる点が挙げられます。

これらの特性を理解し、適切な溶接条件や後処理を選ぶことが、高品質な製品づくりにおいて重要です。

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フェライト系ステンレスの溶接方法

フェライト系ステンレスの溶接には、目的や部品形状などに応じた最適な方法の選定が重要です。

代表的な方法として、TIG溶接などのアーク方式と、レーザー方式があります。

アーク方式は比較的制御性が高く、薄〜中厚板の接合に適しているため、フェライト系ステンレスにも広く用いられています。一方で、熱の影響が大きく、割れや歪みに対する対策が必要です。
レーザー溶接は高出力レーザーにより金属を高速で局所的に溶融させる方式で、熱影響部(HAZ)が小さく、精密かつ歪みの少ない加工が可能です。フェライト系ステンレスのように熱に敏感な材料にも適しており、小型部品や高精度が求められる箇所に効果を発揮します。

いずれの方法を用いる場合も、フェライト系ステンレスの工程では、熱管理と歪み対策、脆化防止などが品質を左右するため、適切な接合技術の選定が欠かせません。

アーク溶接

アーク溶接は、電極と母材の間に発生するアーク放電によって金属を局所的に溶融させ、接合する方法です。フェライト系ステンレスの加工にも広く用いられており、とくに中〜厚板の部品や構造物の接合に適しています。TIG法やMIG法といった方式が一般的で、それぞれに適した条件設定が求められます。

フェライト系ステンレス溶接において重要なのは、入熱量の管理です。過剰な入熱は結晶粒の粗大化を招き、脆化の原因となります。そのため、電流、電圧、溶接速度、層間温度などを適切に調整し、管理することが大切です。

使用する材料の選定も重要で、母材と同等以上のクロム含有量を持つ接合材を使用することで、接合部の耐食性を確保します。フェライト系ステンレスの溶接では、工程条件の最適化と作業者の技術が品質を大きく左右するため、外部に依頼する際はその加工会社の実績や設備などをよく確認しておくことが大切です。

レーザー溶接

レーザー溶接は、高エネルギー密度のレーザー光を金属に照射し、局所的に溶融させて接合する精密な溶接方法です。フェライト系ステンレス溶接においても、熱の影響を最小限に抑えながら高品質な仕上がりを実現できるため、近年注目されています。とくに、薄板部品や歪みを極力避けたい箇所で有効です。

フェライト系ステンレス溶接にレーザー溶接を適用する最大の利点は、熱影響部(HAZ)が極めて狭く限定される点です。これにより、結晶粒の粗大化や475℃脆化、炭化物析出などのリスクを低減しやすくなります。

ただし、レーザー溶接は設備投資が大きく、光学系の調整や反射率の高いステンレス材に対するビーム吸収効率の確保など、技術的なノウハウも必要とされます。フェライト系ステンレス溶接では、材料表面の反射率や熱伝導特性に応じた調整が求められるため、専門的な知識を持つ加工会社への依頼が望ましいでしょう。

フェライト系ステンレスの溶接の注意点

フェライト系ステンレス溶接では、材料特性に由来するいくつかの注意点があります。とくに、低温割れのリスク、475℃脆化の問題には注意が必要です。

まず、低温割れは、溶接中および冷却過程でのひずみや応力の集中によって発生しやすいため、適切な入熱管理と冷却制御が求められます。溶接条件を過度に設定すると、母材にダメージを与える可能性があります。
次に、475℃脆化はフェライト系ステンレスのようにフェライト相を多く含むステンレス鋼特有の現象で、特定温度帯に長時間さらされると脆くなり、機械的性質が低下するという問題です。溶接後の使用環境などを踏まえて、必要に応じた熱処理対策が必要です。

低温割れを防ぐ

フェライト系ステンレスは、一般に低温割れ(水素割れ)の感受性が低い材料ですが、拘束条件が厳しい場合や板厚が大きい構造では注意が必要です。

低温割れを防ぐためには、入熱を適切にコントロールし、溶接速度やビードの形状に注意を払うことが重要です。また、開先形状や仮付け方法を工夫することで拘束応力を緩和し、割れのリスクを軽減できます。

さらに、板厚が大きい場合には適度な予熱や層間温度管理をおこない、冷却速度を制御することで脆化や割れの発生を抑えることが可能です。経験豊富な加工業者の選定が、高品質な接合の実現に直結します。

475℃脆化の対策をする

フェライト系ステンレスは、約475℃付近に長時間さらされることで475℃脆化と呼ばれる現象を引き起こします。これは、フェライト相中にクロムと鉄の拡散によって脆化が進行し、靭性や延性が大きく低下する現象です。とくに、溶接後にこの温度帯に長時間さらされる工程や、機器の使用環境が475℃付近にある場合、部材の破損や性能低下のリスクが高まります。

この脆化を防ぐためには、溶接後の冷却速度を適切に管理し、475℃付近での長時間の滞留を避けることが重要です。必要に応じて、溶接直後に急冷するか、もしくは溶接工程を短時間で完了させる工夫が求められます。

また、使用環境においても該当温度域での連続使用を避ける配慮をするか、材料自体を475℃脆化に対して安定な組成のフェライト系ステンレスに変更することも有効です。

長期的な信頼性を確保するために、溶接条件だけでなく運用条件まで見据えた対策が求められます。

フェライト系ステンレス溶接 作業の様子

フェライト系ステンレスの溶接は小池製作所にお任せください

フェライト系ステンレスは、熱による影響を受けやすく、冷却速度や入熱管理が不適切だと低温割れや475℃脆化が発生しやすくなります。

溶接には、アーク溶接やレーザー溶接といった手法を用いることが多いですが、いずれの手法でも適切な材料の選定、脆化対策、冷却管理が不可欠であり、溶接後の使用環境まで考慮した工程設計が求められます。

小池製作所では、60年以上の長年の経験と技術力を活かし、フェライト系ステンレス溶接において最適な溶接方法をご提案、実施することが可能です。
高品質な溶接が求められる製品、部品の加工は、ぜひ小池製作所にご相談ください。

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